はじめに
今回ご紹介するのは、相棒Season6の名作回(第10話)
「寝台特急カシオペア殺人事件!上野~札幌1200kmを走る豪華密室!犯人はこの中にいる!!」。
物語の舞台は、日本を代表する豪華寝台列車「カシオペア」。
密室、護送、殺人、そして30年前の爆破事件…。
複雑に絡み合う事件と、杉下右京(水谷豊)の鋭い推理が光る一本です。
この記事では、簡単なあらすじとともに、印象的なシーン、そして作中の法律的なポイントもわかりやすく解説していきます。
今回、胸に残ったのは「人は、過去から逃れられるのか?」という重く静かな問いでした。
あらすじ
物語は、札幌で発覚した拳銃の密売事件から始まります。
その現場を偶然目撃していたのが、根元(柏原収史)という一人の男でした。
一方その頃、都内のアミューズメントパークでは、左翼過激派の新井田(川本淳市)と爆弾マニアの塚原(崔哲浩)による危険な取引が行われていました。
しかし、交渉は決裂し、偶発的に爆発事故が発生。

その混乱の中、塚原に渡るはずだった金を奪ったのが根元です。
根元は、札幌に残してきた妻と子を置き去りにし、恐怖から逃れるように東京へとやってきていました。
その後、警察に身柄を確保された彼は、再び札幌へ護送されることになります。
護送を任されたのは、警視庁特命係の杉下右京(水谷豊)と亀山薫(寺脇康文)。
彼らが選んだ移動手段は、豪華寝台特急「カシオペア」。

しかしその車内で、新たな事件が発生してしまいます。
被害者は、クラブ経営者の津島(江原修)。左胸を刺されて死亡していたのです。
列車という“密室”の中で、犯人を特定する捜査が始まります。
だが乗客の中には、身分を偽って乗車していた人物が複数いたことが明らかになり、事件はさらに混迷を深めていきます。
30年前の爆破事件がつなぐ「もう一つの真相」
殺人事件は一件落着したかに思われました。
だが、右京の胸には消えない違和感が残ります。
なぜ複数の乗客が、身分を偽ってこの列車に乗っていたのか?
なぜ今、この列車で事件が起きたのか?
その背景には、30年以上前に起きた爆破事件が静かに横たわっていたのです。
忘れ去られたはずの過去。
だがそれは今なお、人々の人生を狂わせ、そして、事件を引き起こす“動機”として生きていた――。
この列車で起きた殺人は、偶然ではなかった。
それは必然だった。
ひとりの人物の、計算された“意図”のもとに。

印象的だったワンシーン/セリフ:「バンカケ」から始まる違和感の連鎖
「こりゃ、刑事さんにバンカケされたら、何でもしゃべっちゃいそうだな」
何気ないこの一言が、事件の真相に近づく“鍵”だったことに、あなたは気づけたでしょうか?
「バンカケ」とは、警察の隠語で「職務質問」のこと。一般人がそう簡単に口にするような言葉ではありません。
だからこそ、右京がその言葉を耳にしたときに、ほんのわずかに表情を曇らせたのです。
ただ、あの時点では目の前の殺人事件に気を取られていたためか、深追いはしませんでした。
しかし――列車が札幌に到着してから、右京の頭の中であのセリフが「引っかかっていた糸」をたぐり寄せ始めます。
そして気づいたとき、右京の行動はあまりにも速かった。
関係者の居場所を即座に特定し、犯人の裏をかき、被害者を迅速に救出。
その冷静さと判断力、そして行動力。まさに「和製シャーロック・ホームズ」の真骨頂でした。
さらに、根本の安否を心配して駆けつけた妻とその子どもとの家族の再会シーンも心に残ります。

妻と子が駆けつけ、無言で抱きしめ合う姿には、不器用ながらも“家族”というものの温かさがにじんでいました。
一方で、過去の過ちを悔いることなく権力に取り込まれていった人物、過去の罪に囚われ続けた人物の対比も重く、深く、考えさせられます。
今回の法律解説:「殺人罪」になるのか?それとも…
カシオペアの中で起きた事件――
「人が死亡した」という事実だけで「殺人事件だ!」と思うのは早計です。
法律の世界では、同じ“死亡”でも、その原因や状況によって成立する罪が全く変わってくるのです。
たとえば…
行為 | 成立する可能性のある罪 |
---|---|
明確な殺意を持って殺した | 殺人罪(刑法199条) |
ケンカの末、加えた傷が致命傷に | 傷害致死罪(刑法205条) |
うっかり行為で命を奪ってしまった | 過失致死罪(刑法210条) |
では、今回のカシオペアでの事件はどれに当たるのでしょうか?
「ナイフで左胸を一突き」――と聞くと、殺意アリで殺人罪に思えるかもしれません。
でも重要なのは、「その人物が、なぜ、どういうつもりで刃物を使ったのか」という背景です。
本人に“殺すつもり”がなかったと主張し、かつ状況証拠がそれを裏づければ、傷害致死罪になる可能性もあります。
さらに、相手の攻撃を受けて咄嗟に反撃し、それが致命傷になった場合――
**正当防衛(刑法36条)**が成立し、「無罪」となることすらあるのです。
相棒を観るときの“裏の楽しみ方”として、
「この事件、どの罪にあたるんだろう?」と考えてみるのもオススメです。
ドラマの中で逮捕された人物が、現実世界ならどんな罪に問われるのか?
量刑は?起訴される?執行猶予はつくのか?――そんな風に想像すると、いつもの相棒が少しだけ違って見えるはずです。
まとめ:過去は、列車に乗ってやってくる
「寝台特急カシオペア殺人事件」は、
密室トリックと心理戦、そして社会派のテーマを絶妙に絡めた傑作エピソードでした。
ひとつの事件の裏には、いくつもの過去がある。
正義の名のもとに、誰かの人生がゆがんでいく。
それでも真実に向き合う杉下右京の姿に、私たちは何度も心を動かされるのです。
あなたも「相棒」で“考える楽しさ”を
法と心の交差点を描く相棒の世界。
ぜひ、今回のエピソードも見返してみてください。
そして「自分だったらどう判断するか?」を考えてみると、新たな気づきが得られるかもしれません。
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